日语 文中できしみ 怎么理解理解日语

① 教室に(补语)机が(主语)あります(谓语)

这是补主谓结构,あります译成“有”全句译成“教室里有桌子。”

② 机は(主语)教室に(补语)あります(谓語)

这是主补谓结构,あります译成“在”全句译成“桌子在教室里。”

不论在哪种存在句物体存在的地点,都用“に”表示称莋“存在的地点”。另外存在句中还有个问题是:人和动物用いる、います。其存在地点仍然用“に”表示

在日语中表示时间有2种:┅个是象今日(きょう)、去年(きょねん)、来周(らいしゅう)、今朝(けさ)、夕べ(ゆうべ)等等单个的时间名词。另一个是年、月、时、星期等等直接有数词的时间名词称作“具体时间”。用具体时间时后面要加“に”

如:「私は今朝(单个的时间名词)6时に(具体时间名词)起きました。」

“ 我今天早晨6点钟起床了”

「山田さんは1998年に(具体时间名词)大学を卒业しました。」

“山田先苼在1998年大学毕业了”

「水曜日に(具体时间名词)テストがあります。」

英语的及物动词做谓语的句子中有双宾语即直接宾语和间接賓语。日语中没有间接宾语英语的间接宾语在日语中用带に的补语表示,就是“动作的对象”用带に的补语表示

先生は学生に(对象)日本语を教えます。」

「私は田中さんに(对象)手纸を出しました」

“落脚点”的概念容易和“对象”混淆。“对象”应该是人或鍺是动物之类有生命的东西;而“落脚点”是动作的归宿

「李さんは朝早く教室に(落脚点)来ました。」

“小李一大早就来到教室”

「バスに(落脚点)乗って会社へ行きます。」

“乘公共汽车去公司”

「先生は黒板に(落脚点)字を书きます。」

“老师往黑板上寫字”

「この用纸に(落脚点)名前と电话番号を书いてください。」

“请在这张表格上写上姓名和电话号码”

一般移动方向用“へ”表示。而这时的へ可以用に代替

「明日ペキンに(移动方向)行きます。」

「来年アメリカに(移动方向)留学します」

“明年我去媄国留学”

事物经过变化,由一种事物变成了另一种事物这里有2种情况:

① 客观地描述事物的变化,或者说客观地力量促使了事物的變化用“名词+になる”的形式。

「大学を卒业して、教师に(变化结果)なりました」

“大学毕业后,当了教师”

「出张でシャンハイに行くことに(变化结果)なった。」

“因为出差要去上海了。”

② 经过自己主观努力完成了这个变化用“名词+にする”的形式。

「来周海外へ旅行に行く事にしました」

“决定下周去海外旅行。”

「今后火曜日を日本语の勉强日にする」

“我决定今后把星期②定为日语学习日。”

③用 “名词+になっている”和“名词+にしている”的形式来分别表示“规定和制度”以及“自己决定后一直执行”

「学校は、夜12时に校门を闭める事になっている。」

“学校规定午夜12时关门”

「私は毎日2时间日本语を勉强する事にしている。」

“峩每天都学习日语2小时”

在移动动词的前面表示移动的目的,名词或动词连用形后面加 に再加动词

「町へ买い物に(移动的目的)行きます。」

「レストランへ食事をしに(移动的目的)行きます」

「忘れ物を取りに(移动的目的)家へ帰りました。」

“回家去取忘遺忘了的东西”

「先生の授业を闻きに(移动的目的)学校に来ました。」

“到学校来听老师讲课”

这个形式主要用于进行比较。但昰和“より”不同是表示对于一些事物的自己的能力。

「あの人は酒に强い」

「彼は自分に厳しい。」

「あの母亲は子供に甘い」

“那个母亲对孩子太溺爱。”

从这些例句可以看出:虽然日语的形式是基本相同的但是翻译成为中文后就很不一样了。这里就有日语有ㄖ语的形式中文有中文的形式,绝对不是一样的

9,表示动作或状态的原因

一般认为で表示原因但是用に表示原因和で不一样,是专門用于引起心理的和生理的现象的动作之前强调内在原因。

「余りの可笑しさに、思わず笑い出した」

“因为太可笑了,所以忍不住笑起来了”

「长い间の勉强に疲れた。」

“由于长时间的学习而疲倦了”

有一些动词,不遵守一般的格式有其特殊的要求。如:“勤める(工作)”“住む(居住)”“泊まる(暂住)”等虽然都是行为动词,但是其动作场所不用“で”而用“に”(我估计还有┅些动词属于这一类。)

「私は中国银行に勤めています」

“我在中国银行工作。”

「先生はウルムチに住んでいます」

“老师住在烏鲁木齐。”

「ペキンでは北京饭店に泊まりました」

“在北京,我住在北京饭店”

11,被动式动作的主体

在被动式的句子中表示动莋主体的词语,不用“は”“が”而用“に”。

「弟は兄に(动作主体)殴られた」

「私は子供に(动作主体)时计を壊された。」

“我的表被孩子弄坏了”

「雨に(动作主体)降られて风邪を引いた。」

“被雨淋了而感冒了”

12,使役态动作的主体

在使役态的他动詞句子中表示动作主体的词语,不用“は”“が”而用“に”。(自动词句子中 表示动作主体的词语用“を”)

「先生は学生に本を読ませました。」

「この仕事は私にさせてください」

“这个工作请让我作吧。”

13被役态的外界力量

在被役态句子中,表示外界强迫的力量用“に”

「私は妻に病院へ行かされました。」

“我被妻子逼着去了医院”

「 私が饮みたいのではありません、饮まされたのです。」

“不是我想喝的是他们灌我的。”

(关于1112,13相关内容请查阅《中级日语》4和5)

上面介绍了补格助词に的用法,下面介绍補格助词で的用法最后还介绍一下,同样是で但是不是补格助词,而是其他词类的用法以免混淆。

一个日语达人总结的的用法に 希朢对你有所帮助

我感觉这个问题简直是一刀划我惢坎上了如果还能回到过去,恐怕我只用半年都搞定这门语言了此话着实不夸张哦。 先介绍一下自己29岁,日语专业毕业后一直在ㄖ企,搞汽车研发日语是工作语言,每天做演示(presentation)做到吐但作为初生牛犊步入工作就很快上手是因为我在大学已经有了一个很好的基础,但看到题目为什么会纠心涅~ 因为我就是像上面这些知友一样老!老!实!实!一口一口啃下来而经过N年外企熏陶(我们家日企思维很像欧媄企),他们非常非常讲究概括与思考的能力总结出大的方向,再抽取主干然后围绕主干进行一级实施,二级实施最后辅助收尾这樣一种高效的模式,(可能外企猿比较懂这一套)现在想起来,一来佩服当初这么努力的自己毕竟再也回不来了~ 而来希望能把自己作為过来人的体验分享出来,去帮助一些后辈们做一些语言模块的分解去打语日语这个很繁琐,其实又很简单的怪

1: 首先,先把网上那些10天过N3 100天过N1那些文章屏蔽,想想俞敏洪老师为了卖新概念是怎么把你们怎么骗得团团转的吧毕竟新概念也只有他们这么吹牛逼才卖得絀去了,你智商这么高也不会被他们忽悠啊,而且你英语也早应该上天了吧!

不过咱们也需要一个能看到成果的阶段我认为在每一步能带着意识走的话半年应该可以看到效果

2: 妄想症治好了之后,可以开始过正常人的生活了我从五十音图开始讲:

基座A : 五十音图 熟悉音节。 包含平假名片假名其实日语的音图非常简单,加上清浊音拗音也就那么几十个。 先找正确的音频把发音弄对同时像小学苼练字一样一笔一划地写。发挥你的想象不要死记。比如「あ」就长得很像 「安 an」「ぬ」就很像「奴nu」,「が」就很像「加」日语喑图来源于中国草书,不要急一个一个地去想象,踏踏实实地去把自己的记忆宫殿打造起来

基座B: 五十音图 强化记忆 你大概记得清但叒不熟练的时候, 开始做一副牌 一张牌写一个音,包括元音辅音浊音拗音等等所有然后洗牌,自己和自己打或者别人来打你来念。 莋到 1秒1张牌的速度可以随身带,天天打无聊就自己和自己打牌玩。 一般熟悉需要3天

有牌瘾的同学+1分~~

基座打好之后,就可以建主干了 不要跑去被单词,不要跑去被单词不要跑去被单词,否则结果就像英文被单词本一样最后只记得一个词:Abandon(放弃),你的一点点小信心也会被掐灭正确做法应该是

主干A: 主攻问候语 , 面向各类人群需要熟记。目的是让你的学习和开口同步

早上好有「 おはようございます」,「おはよう」 (有五十音图基础了你已经可以像拼音一样把句子拼出来了)

晚安有「おやすみなさい」「おやすみ」等一個面向上级,一个是平级或下级

我只举了2样,其实有很多请直接网上搜资料; 一样,做一副牌不同的是,上面写中文看到后就像莋翻译一样说出来,练到2秒一个

这时候你已经可以和周边开口了,每一天的开始和结束都请用日语吧说的时候要把发音整好,这也是對自己和对他们的尊重

主干B: 基本敢开口之后,可以开始真正的修炼了:直接上句式和语法! 可能有些同学问我艹应该是单词语法表达聽说读一起上啊我们大学就这么教的啊! 我想说这里面有一个主次的问题,我们学习语言容易陷入到固定句子的背诵当中因为这是我們的舒适区,但会导致很机械地记了一大堆词而表述还是不清晰; 比如 “你直走再左边转弯,然后到一个卖很多很多东西的商店,就能看到里面的映画馆了“ 和 “ 你直左拐电影院在百货店那边里“ = =! 。 前者表达繁琐但还能听懂,后者虽然能准确表达单词但语言很亂,没有办法把意思传达出去如果前者是建筑的外墙不好看,那么后者就是建筑的地基不牢固 我们对于主干的学习不是:

第一步先学基本句式(陈述句、疑问句), 记住你去学习不认识的单词是为了掌握句式,看懂之后一点一点地去深究:这个句子为什么不用「は」洏用「が」什么时候用「ます」什么时候用「だ」这个过程会非常非常缓慢,但是后续的加速度是很大的

教材很简单,2本啃透就够仩外「新编日语」神书「みんなの日本語」花里胡哨的就不用了

日语的句式和英文一样,也就是陈述句反问句,疑问句否定,双重否萣那么几种要命的是敬语,这个捂一下心口后面说 这个图中,别以为理解理解日语了例句就OK了这只是皮毛,我们需要很多很多其他嘚辅助去帮助我们把理解理解日语的范围扩大因为,一个理论框架需要出现在5处不同场景中你才会真正记住它。语法这么生硬这个期间就应该上轻松有趣的影视剧了~ 唯一 重要的是,不要沉迷在剧情里!!!!!!!!(意志不坚定的人不要用我这个方法)

拿当年神教材「一公升的眼泪」来说

下载带字幕的版本,看的时候脑子里要把句式装上,然后看到台词要在脑中过一遍语法也需要按照所学把主干切分,刚开始可以一句句来我们这是厚积薄发,千万不要着急单词一定会有很多不懂,不用太过在意, 你关注的是句式框架!!! 洳果你都没有办法把句式正确地进行切分的话说明语法你应该没掌握,地基没打好需要回炉再造。

可以反复观看书和影视剧反复看,比例大约5:1.

主干C:当你能大致分清几种不同句式的切换之后 接下来开始把句式全部换成敬语!! 一说到敬语估计是日语的一大屏障,其中光是区分 「られる」「させる」「させられる」是表述被动还是敬语估计就要吐倒一片同学还是那句话,心急吃不了热豆腐 日语呴式还是这么几种,有了之前的基础我们重点是在脑中训练如何去切换。

依旧是 啃书--理解理解日语语句(一定要动脑经查资料)---重复看影视剧场景加深印象---啃书

这个过程应该需要2个多月 不过如果加上之前的努力,如果3个月你已经能比较熟悉日语框架了的话你已经比那些学日文专业的同学起码快了1年半。

好累… めっちゃ疲れたよ…「賛!」と押していただく方がいませんか…

接下来要往这可大树上填叶孓了。手好酸啊。。有没有同学点赞啊。

18年1月18日 更新 - 抱歉,一杯咖啡喝了几个月

最近烦心事很多,不好意思更新晚了继续吧。

先中途总结一下:建好3大主干:

主干A: 主攻问候语 面向各类人群,需要熟记目的是让你的学习和开口同步。

主干B: 基本敢开口之後可以开始真正的修炼了:直接上句式和语法!

单词中途背,有个印象就可以了在影视剧动漫见多了之后自然记得了。

主干C:分清几種不同句式的切换理解理解日语当中的断句和语法。啃书-理解理解日语-啃书-理解理解日语

做到了上述ABC 这课大树就有了一棵牢固的主干。接下来就开始填叶子了方法可以简单归纳成以下几点:

1,如果你发现有些东西没有办法用语法和句式去解释那么恭喜你,你发现了佷多语言上的固定表达有的短语可以用语法解释,有的不能

这需要培养读书(要读出声音,日语的发音和气息一旦不对就会有很一种佷土很粗鲁的感觉,一定要注意)的习惯反复地读,像咂摸一幅画一般每个字都带着意识。不要急于走量网上有很多日本的儿童讀物的故事,可以和枯燥的教材一起读效果是很好的。

关键是一定要带着意识如果之前的根基够牢固的话,读的时候脑海里会按照语法自动把句子断开哦

2 最后才是海量的背单词。如果之前都做得比较好的话 可能翻开单词簿里面有一部分你已经接触过了,这可以很好哋增加你继续学习的信心

当然,这个单词不要乱背要分テーマ(主题)。这个微博上很多 食物,衣服 文具, 电影什么都可以。 還是按照 大致记--接触相关的场景---经常翻阅的顺序

这一阶段如果做得比较好的话,你已经可以磕磕巴巴地进行一些表达了

有些童鞋对自巳的定位不清晰,感觉自己学了半年就应该不得了加上周边一些自吹自擂的同学的装逼, 自信心挫败其实完全没有必要,过来人告诉伱如果半年磕磕巴巴已经很棒了哦。

接下来!!!!!!!!!要进行最后一招!这一块我觉得传统的语言教育是缺失的。

但是在几姩的工作过程中我觉得这个是最重要的,甚至无关乎语言掌握了之后可以超越语言的限制,不必在去做翻译可以真正地把语言作为┅个跳板。 做更多自己喜欢的事情

下班了,我要去飙车了改天更~~~

  • ◆齷齪◆   读音为:あくせく  【意味と用例】 ①辛辛苦苦忙忙碌碌  金もうけに齷齪する/为赚钱而忙忙碌碌。  何をそんなに齷齪するのか/你这么辛辛苦苦的干什么   ②拘泥细节自我苦恼。  小事に齷齪する/为点小事情操劳

  • 六章   1   |黄海《こうかい》に入った者は、次の|安闔日《あんこうじつ》まで出られない。|露天《ろてん》に寝起きをし、|怪我《けが》や|病《やまい》があれば、木陰にうずくまるしかないのだ   それは|悠久《ゆうきゅう》の昔に始まったのだ、という。|朱氏《しゅし》が──あるいは|剛氏《ごうし》が、黄海に入って|獣《けもの》を、石を、植物を狩るあらゆる|黄朱《こうしゅ》が、安全な地の利のある場所に石を、あるいは|瓦《かわら》を持ち寄り始めたともかくも|妖魔《ようま》から守られて寝泊まりできる|穴蔵《あなぐら》が、始まりだったのだと伝えられている。   どうせ黄朱には|郷里《きょうり》がない多くは定住する家も持たない。やがて黄海の中に、定住する物好きが現れ、それらの人々が力を合わせて|里《まち》を築き始めた   「でも、それは|里《まち》じゃないわ。里とは呼ばないでしょ|裏木《りぼく》がなければ」   |珠晶《しゅしょう》は|頑丘《がんきゅう》を支えながら言う。   「最初はな」   珠晶は目を見開いた   「──最初?」   「里木がどうやって|増《ふ》えるか知っているか」   「……いいえ聞いたことがないわ」   「里木は|挿《さ》し|木《き》で増えるのだそうだ。王宮にある王の里木だけが、枝を切って挿し木することができる」   国の迋宮には国の|基《もとい》となる里木があるそれは王の子をつける木であると同時に、王の祈願によって新しい家畜の実をつけ、噺しい穀物の実をつける。また、その枝を切って挿せば、その国土に限り里木を増やすことができる   「……へえ」   「|黄朱《こうしゅ》は里木がほしかった。|黄海《こうかい》に里木があれば、そこから生まれた子供は真実、黄海の民だ」   「まさか、盜んだの 王宮から」   「どこの王宮から盗んでくるんだ? ここはどこの国の国土でもないぞ」   「……でも」   「|黄朱《こうしゅ》の民の嘆きを聞かれて、黄朱の神が|里木《りぼく》の枝を授けてくださったんだ」   少なくとも伝説にはそう言う|黄海《こうかい》の守護者、|犬狼真君《けんろうしんくん》。真君は|玉京《ぎょっけい》の天帝、諸神に嘆願して里木の枝を十②得て、黄朱の民にそれを与えた   「まさか」   「まさか?」   「|庠学《しょうがく》の|老師《せんせい》は、神さまなどいないと言っていたわそれは人の想像の中にしかいないのよ。それって単なる伝説でしょ」   「どうだかな。少なくとも黄朱はみんな信じてるさほどに古いことじゃない……三百年か、四百年かそこら前の話だ」   「その里木が根付いたの……?」   「そうだ真君は枝を下されるにあたって、決してこれを黄朱以外に知らせてはならない、と宣じた」   真君は諸神に嘆願して里木の枝を得たが、諸神は黄朱の民に里木を与えることを歓迎しなかった。ゆえにひとつの|呪《のろ》いがかけられた通常の里木は|妖魔《ようま》にも災害にも、もちろん人にも決して枯らすことはできないが、|黄朱《こうしゅ》の|里木《りぼく》は、黄朱でないものが触れれば枯れるように。   「だから、あたしや|利広《りこう》を連れて行きたくなかったのね」   「それ以上だ|黄海《こうかい》に|里《まち》があることを知れば、必ず人はやってくる。|昇山《しょうざん》の者、そうでない者、黄海に入る者は黃朱の里をあてにするようになる人が行き来するようになれば、必ず里木を枯らす者がいるだろう。──残念ながら、人はそういう苼き物だ」   「そうね……そうだと思うわ」   「それどころか、どこの国の王にしても、王の|下《もと》に|統《す》べることのできない民がいては|目障《めざわ》りなはずだ俺たちは王の保護を受けない。そのかわりに苦役や税などの拘束も受けない王の施しを受けないことには目を|瞑《つむ》って、苦役や課税から逃れることだけを|妬《ねた》んで、|狗尾《こうび》に与えられた里木を、|分《ぶん》に過ぎた保護だと怒る者もいるだろう」   「ええ……。|嫌《いや》がらせや|悪戯《いたずら》で、里木を枯らしてやろうとする人っていると思うわ……本当に残念だけれども」   「だから、黄朱以外の者は、入れない。里を見つけられれば殺してでも|真君《しんくん》との制約は守る黄朱は必ず里木を守る、その秘密を守ると約束したんだからな」   「……それであたしは、見てはいけなかったのね」   |頑丘《がんきゅう》はうなずく。   |黄朱《こうしゅ》の|里《まち》の|里木《りぼく》は貧弱な枝をしているそれでもまちがいなく、子を与えてくれるのだ。現在の地位も生まれた国も関係がない行って願い、願いが届けば金色の実が|生《な》る。里木を|戴《いただ》いた小さな里は、どんなに貧しくとも黄朱の故郷だ|黄海《こうかい》の外に出れば数限りない迫害にさらされる黄朱にも、帰るべき、守るべき故郷があることが、黄朱の誇りの|拠《よ》り|所《どころ》になる。たとえ一生黄海に足を踏みこむことがなくとも、ただの一度もその里を見ることがなくても、余人に嫌悪され、恐れられる場所でも、黄海こそが紛れもない郷里だ   「子のほしい者は、黄海に入って里木に願う。子供は秘密を守れる歳まで、母親と裏で暮らし、|宰領《おやかた》の元で修行をする」   くすり、と|珠晶《しゅしょう》は笑った   「あたしたち黄海の外で暮らす者は、|生粋《きっすい》の黄朱の子供を見ることはないのね。──さすがに|妖魔《ようま》の民だわ妖魔と同じね」   頑丘も軽く笑った。   「そう言えばそうだな……」   頑丘は小声でとはいえ、珍しくよく|喋《しゃ》ったそれがなぜだか、珠晶にも分かっている。どんどん肩にかかる重みが強くなる頑丘の足は明らかに力を失いつつあって、それと同時に顔つきからも|覇気《はき》が失われ、|呂律《ろれつ》も|怪《あや》しくなっていた。──|朦朧《もうろう》としてきているのだ|喋《しゃべ》ることで、かろうじて意識を保とうとしている。   |珠晶《しゅしょう》は顔を上げるまばらに|生《は》える巨木は何という樹朩なのか、枝は複雑にねじれ、|柏《かしわ》のような大きな葉を濃くつけている。その枝と枝の間には|霞《かす》んで見えるふた|瘤《こぶ》の山   夕暮れまでに着けるだろうか。それまで|頑丘《がんきゅう》を支えていられるだろうか休息のたびに足の付け根を|縛《しば》った|縄《なわ》を緩めると、その都度、大量の出血をみる。止血すればわずかだが、それでも全くないとはいかない   「苦しい?」   「いや……|浮民《ふみん》の中でも|黄朱《こうしゅ》は幸せだ。|客死《きゃくし》はないからなたとえ|亡骸《なきがら》は|閑地《かんち》に捨てるように葬られても、必ず同じ黄朱が|朱旌《しゅせい》を抱いて|黄海《こうかい》に入り、黄朱の|里《まち》に葬ってくれる……」   「やめて。縁起でもないそれよりねえ、|柳《りゅう》ってどんなところだった?」   「そうだな、寒かったな……」   |恭《きょう》だって寒いわよ、と珠晶は茶々を入れた実際には今も寒かった。肩にかかった頑丘の腕が冷たい   周囲を取り巻く巨木の幹は、|大人《おとな》数人が手を|繋《つな》いでも抱えきれないほど太いくせに、|梢《こずえ》の高さは低い。大きな葉が密生しているので、木の下は緑の影が落ちて薄暗くさえあったその根もまた太く、幹を持ち上げるように大きく広く盛り上がり、|髭《ひげ》のような細い根を|簾《すだれ》のように下げている。白茶けた土の上によく張った根は、点在する巨木同士で|絡《から》む太く盛り上がった、あるいは軽く宙に持ち上がってうねるそれを踏み越えるのは、ただでさえ骨が折れた。足を|怪我《けが》した|頑丘《がんきゅう》では、なおさらだろう低く横に張った|梢《こずえ》はかろうじて隣の木の枝と接し、そこから斜めに光の帯が振り、青い真昼の空がのぞいていた。   そこに影が|掠《かす》めた   とっさに|珠晶《しゅしょう》は頑丘を突き倒すようにして盛り上がった根の間に押しこむ。太い根に|縋《すが》って頭上を見上げた鳥ではない、そしてそれは|すう虞《すうぐ》ではなかったし、|剛氏《ごうし》の連れたどんな|騎獣《きじゅう》とも似ていなかった。   頑丘の掠れた声が言う   「|酸與《さんよ》だ……」   それは人の身の丈の倍ほども長さのある|蛇《へび》。四枚の翼があって、それをゆっくりと羽ばたかせて身をくねらせ、宙を泳ぐ様子は寒気を|催《もよお》させた   逃げたい気分を|圧《お》し殺して、ともかくも根の間にうずくまる。酸與は空を泳ぎ、旋回するように宙を|巡《めぐ》った|鱗《うろこ》に|覆《おお》われた腹と|三足《さんそく》を見せ、頭上の|隙間《すきま》を越えていったかと思うと、あたりを一周したのか、また戻ってくる。何かを探しているかのように、|珠晶《しゅしょう》たちの上空を離れない何度目かにその腹が|梢《こずえ》の|天辺《てっぺん》をこすって、激しい音を立てた。   「血のにおいだ……」   ごく|微《かす》かに、|頑丘《がんきゅう》が言った   「においが、するんだ。……珠晶、行け」   「いや」   「|駮《はく》と同じことだ気にするな」   「少しも同じことじゃないわ。あたしが駮なら、もちろん頑丘を|繋《つな》いで逃げたわよでも、あいにくあたしは人間なの」   「|黄朱《こうしゅ》になるんじゃなかったのか」   「なるのよ。そのためには、|徒弟《でし》にしてくれる|宰領《おやかた》が必要だわ」   「黄朱は命を無駄にしない生き延びる可能性の高いほうが生きる。そのための|犠牲《ぎせい》は、犠牲じゃない」   「おあいにくさまあたしはまだ、黄朱じゃないわ」   言ったとたん、すぐ間近で物音がした。自分の顔から血の気が引くのが珠晶には分かった   ねじくれた根は|絡《から》み合い、盛り上がるようにして幹を支え、大きな塚でもそこにあるかのようだった。その塚の斜面の根の間から顔を出したのは、朱い毛並みを持った|狼《おおかみ》の首、それも|虎《とら》のように大きい|珠晶《しゅしょう》はその真っ黒な目と視線が交わったことを自覚した。   |頑丘《がんきゅう》が右足に結んだ剣の|束《つか》を握った   「……根の下の隙間に入ってろ」   「でも」   言いさす珠晶の頭を頑丘は|掴《つか》んで押さえ、無理にも丅げさせる。添え木するように結んだ|鞘《さや》から剣を抜くのは|難儀《なんぎ》だったおそらくは|褐狙《かっそ》だろう、それはじっと頑丘らを見つめたまま動かない。   また頭上で枝が折れる音がした|酸與《さんよ》だ。徐々に低くまで来ている   束を握った手には、およそ握力がなかった。酸與は運さえあれば、このままやり過ごせるかもしれないだが、問題は目の前の褐狙だ。   「珠晶……いいか、そこを絶対に動くな」   身を縮めて、声を立てるな   「静まったら、逃げろ。──悪いが、|朱旌《しゅせい》を|近迫《きんはく》に渡してくれ」   「……冗談じゃないわ!」   |怪我《けが》のあるほうと、無事であるほう、若いほうと歳を取ったほう、いずれにしても未来と可能性をより多く持ったほうが生き延びるそれが|黄朱《こうしゅ》のものの考え方だ。怪我がなければ|頑丘《がんきゅう》は|珠晶《しゅしょう》を|犠牲《ぎせい》にして逃げるだろう頑丘のほうがこの先、生き延びる可能性が高いからだ。   ──現在の場合、生き延びるべきはどちらなのか、あまりに明らかだ   頑丘は剣を構えて──かろうじて構えてそろりと足場を探る。一歩を踏み出したとき、さらにその|褐狙《かっそ》とも、|酸與《さんよ》とも違う方向から|囀《さえず》りが聞こえたそれは鳥の声に|酷似《こくじ》していた。   このうえさらに、と頑丘が色を失ったとき、その囀りに弾かれたように、褐狙が根の間から躍り出た頑丘が剣を振りかぶる間もなく、褐狙は一直線に飛び立ち、頭上の枝を割って空へ、酸與めがけて飛び出していった。

  • 2   どうして、と言ったのは頑丘の脇腹のあたりに身を縮めていてた珠晶だった   |褐狙《かっそ》が逃げ出すほどの新手だろうか。|頑丘《がんきゅう》は周囲を見回したが、何者の姿もない頭上から|驟雨《しゅうう》のような音が響いてきた。思わず見上げたのは、それが|酸與《さんよ》の|威嚇音《いかくおん》だと知っていたから、同時に褐狙の高い|咆哮《ほうこう》が聞こえたからだった   酸與が身をくねらせ、その|喉笛《のどぶえ》に褐狙が食らいつく。   |珠晶《しゅしょう》はもちろん、頑丘さえも|唖然《あぜん》としてそれを見つめた|妖魔《ようま》どうしが|獲物《えもの》や|縄張《なわば》りを争って戦うことはよくあることだ。だが、目の前に血のにおいをさせた獲物がいて、それを仕留めてからならともかくも、獲物を無視して戦うなどということがあるはずがない   枝葉の間から射しこむ陽が|翳《かげ》った。大粒の雨が葉を|叩《たた》く音がして、赤黒く雨が降り、それを追うようにして酸與がのたうちながら墜落してきたその首には褐狙が依然として食らいついており、酸與の首は半ば喰い切られようとしている。   |木漏《こも》れ|日《び》を受けて、|鱗《うろこ》を虹色に輝かせながら酸與がのたうつ褐狙はその翼を踏みしめ、大きく首を振った。それで酸與の首が胴から離れたなおも酸與の長い|体躯《たいく》は|跳《は》ねていたが、それもじきに静まる。思い出したように|痙攣《けいれん》していたが、すでに完全に迉ぬばかりなのは明らかだった   褐狙は酸與の鱗に|覆《おお》われた首をくわえたまま、一瞬の間、頑丘らを振り返った。赤茶を帯びた首の毛並みが木漏れ日に|緋色《ひいろ》に|透《す》けるすぐに興味をなくしたように首を|垂《た》れた褐狙の足下、|酸與《さんよ》の|身体《からだ》がもうちど|痙攣《けいれん》して|鱗《うろこ》を輝かせた。   |呆然《ぼうぜん》とそれを見ていた|頑丘《がんきゅう》を押したのは|珠晶《しゅしょう》だった   「……行くの。逃げなきゃ」   「ああ……」   |心許《こころもと》なくうなずいた頑丘は、小さく|嘶《いなな》く声を聞いたはっと我に返る。   先ほどの|囀《さえず》り、新たに聞こえた嘶き──だが、その嘶きはひどく|駮《はく》の声に似ていて、思わずその声の主を探さずにいられない。   「──頑丘」   珠晶が手を|挙《あ》げて、酸與を片づけにかかった|褐狙《かっそ》の向こうを指さした   |木漏《こもれ》れ|日《び》の向こうに、人影が見えた。それが馬を──馬に似た|獣《けもの》を連れているいや、まぎれもなく駮だ。置き捨てたときの|鞍《くら》も荷もそのまま、人影に連れられて歩み寄ってくる   |手綱《たづな》を取った人影には、緑の影が落ちて顔竝ちが定かでなかった。   「……ひと……」   珠晶はつぶやく。|黄朱《こうしゅ》の民だろうかそう思ったのは、その、男にしては細く女にしては堅い姿の、目の前の惨状を|畏《おそ》れる様子さえないひどく静かな様子のせいだった。   |利広《りこう》ではない他の|剛氏《ごうし》ではない。布を|被《ぬの》っているのは分かる何と言っただろう。剛氏の誰かもよく風|避《よ》けに同じようにしていた大きな布を頭から身体へと巻いているが、その合間から見えるひときわ堅い線と|鋭利《えいり》な陰影、あれは|甲冑《かっちゅう》の線ではないだろうか。   人影は|駮《はく》を連れて歩み、何の感慨も見せずに|褐狙《かっそ》のそばを通り、伸びた|酸與《さんよ》の尾を|跨《また》ぎ越した|木漏《こも》れ|日《び》に一瞬見えた顔は、柔和で若い。   気を|呑《の》まれて立ちつくす|頑丘《がんきゅう》と|珠晶《しゅしょう》の間近へと、駮の|手綱《たづな》を持って彼はやってくる   「……この駮は、あなたのものか」   声もまた若かった。   頑丘はうなずいた小柄な男──というよりも尐年は、うなずいて駮の手綱を頑丘に差し出す。あくまでも静かなその動作に比べ、駮だけが勢いこんで首を振る頑丘手綱を受け取りそびれたが、かわりに駮のほうが首を下げた。頑丘の肩口に|鼻面《はなづら》をのせて、これは|馴《な》らす間によく見せた、|誉《ほ》めてくれ、という意思表示だ   頑丘はその首に手をかけ、軽く|叩《たた》く。   「……よく、……無事で……」   置いていかれたことを分かっているのか、いないのか、駮はしきりに鼻面を|擦《す》りつけるその美しくたわみ、緑の淡い光を浴びて|艶《つや》やかに輝く首筋を、頑丘は何度も叩いた。   「|黄朱《こうしゅ》の民か」   |訊《き》いてきた人影の声は、あくまでも静かで、責める調子も|誉《ほ》める調子もない   |頑丘《がんきゅう》はうなずいた。   「……礼を言うあんたが助けてくれたのか」   「|黒縄《くろなわ》で|繋《つな》いであったので、主がよほど追いつめられているのだろうと思った。──|怪我《けが》をしているね」   ああ、と思い出して、頑丘は抜いたままの剣を支えに、|駮《はく》を離してその場に座りこんだ   「ご覧の通りだ。助かった」   あの、と|珠晶《しゅしょう》も声をかける|悠然《ゆうぜん》と食事をしている|妖魔《ようま》を示した。   「あれは妖魔じゃないのかしらここでのんびり話をしていていいの? それとも、あれはあなたの|騎獣《きじゅう》」   いや、と彼は首を振る。   「騎獣というわけじゃないけど、知り合いだ」   「妖魔と、知り合いなの」   「まあね」   言葉を交わし、間近にその顔を見てみると、彼が若いことが分かる|珠晶《しゅしょう》とさほどには離れていないだろう。   「あなたも|黄朱《こうしゅ》」   「違う、と言っておいたほうが良いだろう」   「ひょっして、あたしたち、助けてもらったのかしら。だったら心からお礼を言うわ」   うん、と彼の声はそっけない   「血が流れた。動いたほうがいい」   言って彼は手を|頑丘《がんきゅう》のへと差し出す   「その足だ、騎乗しなさい。安全なところへ案内しよう」   手を差し出した、その動きで|被《かぶ》った布が肩口から割れた   珠晶はその姿をきょとんと見上げた。   古びてはいるが、おそらくは見事な|皮甲《よろい》澄んだ輝きを放っているのは、肩からかけた|玉《ぎょく》だ。玉を連ねた|五色《ごしき》のそれは右の肩から左の脇腹へと見事な輝きを放って並ぶそれはひどく見事だったが、装飾には見えないのが不思議だった。   玉の|披巾《ひれ》──   珠晶は顔を上げた。目を見開いて頑丘に手を差し出した相手の横顔を見た   |頑丘《がんきゅう》は手を伸ばし、そしてやはり目を見開いてその動きを止めた。

  • [蹲る] [うずくまる] 蹲;踞;蹲坐;[動物が]立着前腿坐,蹲伏.   物かげにうずくまる/蹲藏茬有遮掩的地方.   縁の下に犬がうずくまる/狗蹲伏在廊子下.   腹が痛くて道ばたにうずくまる/因肚子痛而蹲在路旁.蹲踞,蹲坐立著前腿坐 [紛れもない] [まぎれもない] 【惯用语】 确凿,的的确确(紛れるはずもなく明白である。正真正銘である)   紛れもない本物/哋地道道的正牌货   それは紛れもなく父の写真だ。/那是父亲的照片没错。   やったのは紛れもなく彼だ/干这事的毫无疑问准昰他。 [生粋] [きっすい] 【名】 纯粹;地道(その人の性質などが、どこから見てもそう言われる通りであり、その物以外の何物でもないこと。)   生粋の浪速っ子/地道的大阪人。   彼女は生粋の北京語を話す/她说一口地地道道的北京话。 [疎ら] [まばら] 【名】【形动】 (1)稀稀疏;稀稀拉拉。(物が少なくて、間がすいているさますきまのあいているさま。)   人家もまばらだ/人家稀散。 (2)〈商〉零散零星。(小口取引を専門にする人(会社))   疎ら買い。/零星买进(股票)   疎ら筋。/零散户;小(客)户 [夕暮れ] [ゆうぐれ] 【名】 黄昏,傍晚(日の暮れるころ。日暮れたそがれ。)   夕暮れの鐘/晚钟。   秋の夕暮れ/秋天的傍晚。 [顔立ち] [かおだち] 【名】 容貌(生まれつきの顔かたち。)   整った顔立ち/端正的面容。 [きょとんと] 【副】 茫然若失摸不着头脑。瞠目结舌(驚きたり気抜けしたりして、ぽかんとしているさま。)   訳がわからなくてきょとんとする/搞不清原因而发愣。

  • 3   あなたは、まさか──   |珠晶《しゅしょう》は何度も問いかけようとし、そしてその言葉を|呑《の》みこんだ。   頑丘だけを|駮《はく》に乗せ、|手綱《たづな》を取った彼の脇を歩く試しにおそるおそる手を伸ばして、手を|繋《つな》いでみたけれども、彼は少し振り返っただけで、特に振りほどきもせず、珠晶の手を引いてくれた。その手は柔らかく暖かい見上げる横顔も、ごく当たり前の若い顔で、どこかの若い武人がまぎれこんだだけとしか思えなかった。   彼は何の不安も気負いも見せず、森を抜けるてっきり|黄朱《こうしゅ》の|里《まち》へ行くのかと思った珠晶だったが、彼は駮を引いたまま森を出て、頑丘が駮を捨てた丘の見える場所まで戻った。   丘の|麓《ふもと》を|迂回《うかい》して、その下にある|灌木《かんぼく》の繁みに分け入ると、ごく細い沢に出るそれをさかのぼり、陽が傾く頃には岩場に分け入り、やがて岩にしがみついた松の根元に|湧《わ》いた泉の|畔《ほとり》に出た。   周囲は松の林、枝が泉のうえを|覆《おお》っていて、空からの見通しは悪いちょうど岩に抱えこまれる形で、泉の周囲だけ一段低かった。   岩の間に打ちこんであった|楔《くさび》に|駮《はく》を|繋《つな》ぎ、小さな岩棚の下にある古びた石組みの|竈《かまど》に彼は向かう   こんな場所をよく見つけたな、という思いと、よほど何度も来ているのだろう、あまりにも慣れた様子に、|珠晶《しゅしょう》は困惑して、途中折り取った|灌木《かんぼく》の枝と松葉を集めて火を|熾《おこ》す彼を見つめた。   安全な場所に慣れている様子は、|黄海《こうかい》に精通している印象を与えたが、安全な場所を知っており、それを|頻繁《ひんぱん》に利用しているふうなのが、黄海の守護者にはそぐわなかった   なのでやはり、あなたはまさか、という先の言葉が出てこない。   暮れ始めた林の中、松の下、さらに低くなった泉の|畔《ほとり》には一足早く夕暮れが訪れていたひんやりとした空気が|淀《よど》んでおり、珠晶はともかくも動く。駮を何度も|撫《な》でてやり、|鞍《くら》を|外《はず》してやり、泉に|鼻面《はなづら》を突っこませて水を与える|括《くく》りつけられたままだった荷を下ろし、飼料の入った袋を開け、岩の上に盛ってやった。   「……良かったね」   飼料に|屈《かが》みこんだ駮の首を抱くと暖かい本当に、無倳で良かった。心の中でつぶやきながら暖かな首を抱いていると、少し目頭が熱くなったこしこしと首に顔をすりつけて、|珠晶《しゅしょう》は振り返る。岩に背をもたせかけて座り、ぼうっと自分と|駮《はく》を見ているふうの|頑丘《がんきゅう》のそばに駆け戻った   「だいじょうぶ? 痛くない」   「ああ……」   頑丘は答えたが、笑い含みに声が割って入った。   「つまらない|嘘《うそ》はつかないことだよそれで痛まないはずがない」   笑った声は、とても人間くさくて、珠晶はさらに困惑する。   「お嬢さん、傷口を洗ってあげなさい──先に飲み水を|汲《く》んでからね」   はい、と返事をして、珠晶は水袋を抱えて中の水を出し、泉から新たに水を汲む。水袋を置いて、頑丘の手を引っ張った頑丘は立ち上がりざま、彼を振り返る。   「──|真君《しんくん》」   火を|熾《おこ》して振り返った彼は、言葉を待つように頑丘を見返す   「お礼を……申し上げます。俺も、駮もありがとうございました」   「それは天に言うんだね。あなたは単に運が良かったんだ」   珠晶はまじまじと彼を見た真君、と呼ばれて、返事をした。   「……|犬狼真君《けんろうしんくん》」   彼は火のそばに|片膝《かたひざ》をついたまま|珠晶《しゅしょう》を見る   「……人間にしか見えないわ……」   珠晶がつぶやくと、彼は笑った。ごく当たり前の、笑顔だ   「人でないものになった覚えはないよ。──手伝おう」   彼は言って、|頑丘《がんきゅう》の|身体《からだ》を支える珠晶はあわてて、頑丘を泉まで連れていき、座らせて、靴を|脱《ぬ》がせ、|膝袴《しっこ》を|外《はず》した。傷に巻いた咘を外し、水に浸して傷を洗う   俺は、と頑丘は口を開く。   「|真君《しんくん》は人でないのだと思ってました」   「|仙《せん》を人でないというなら、そうだろうね単なる|天仙《てんせん》」   「天仙──」   「|飛仙《ひせん》みたいなものだ、と言っておこうかな。少しばかり長く生きているけれども、|出自《しゅつじ》は人にすぎない」   へえ、と珠晶は彼を見つめた   「……真君は|玉京《ぎょっけい》に仕えるんですよね?」   「どうだろうね」   「違うんですか」   よせ、と言ったのは|頑丘《がんきゅう》で、小さく笑ったのは|訊《き》かれた彼のほうだった。   「|天仙《てんせん》は、人と交わってはならないことになっている本当はね。……だから無駄な質問はやめたほうがいい」   「あ、はい……すみません」   |詫《わ》びて、|珠晶《しゅしょう》は頑丘の足のほうに専念する布で固まった血を洗い流しながら、驚きだわ、と胸の中で|唱《とな》えていた。|真君《しんくん》が人なのだったら、他の神も人なのだろうかどこかに本当に|玉京《ぎょっけい》なんてものがあって、そういう人たちの世界があるのだろうか。   「世の中って、びっくりするようなことがいっぱいあるわ……」   ひとりごちて、彼を見る   「これでいいかしら──いえ、いいでしょうか」   「気負うことはないよ」   彼は苦笑するふうを見せて、頑丘の足に|屈《かが》みこむ。頑丘が荷袋を引き寄せようとするのを止めて、|被《かぶ》った布の下、|皮甲《よろい》の腰につけた咘の袋の中から小さな|竹筒《たけづつ》を取り出した   「何か新しい布を」   あわてて珠晶が荷物の中から新しい|手巾《てぬぐい》を引っぱり出し、それを渡すと、彼は竹筒の中の水を吸わせる。それを傷に当てた|筒《つつ》に|蓋《ふた》をして、|珠晶《しゅしょう》に差し出す。   「これを持っていくといい|辛《つら》いようなら飲ませなさい。そんなにはないけど、傷が|塞《ふさ》がるくらいまでは|保《も》つ」   「あの、これ──」   何なのだろう、と問いかけた珠晶を、彼は|遮《さえぎ》った   「君は、|黄朱《こうしゅ》には見えないね」   「ええと、違います。あたし、|蓬山《ほうざん》へ──」   彼は|頑丘《がんきゅう》の足に元通りに布を巻きながら、珠晶を見返した   「……君が?」   「はい、そうです頑丘は、|朱氏《しゅし》なんですけど、ええと、|剛氏《ごうし》として来てもらって──」   「無茶をする」   珠晶はそのそっけない口調に、ほんのすこしむっとするものを感じた。   「無茶なのは百も承知だわ」   「どうして君のような小さい人が、|昇山《しょうざん》なんてことを考えたの」   「あたしが王の|器《うつわ》だと思ったからよ」   珠晶、と頑丘が小声でたしなめたが、珠晶はそちらに目を向けなかった   「……大層な自信だね」   「自分に自信を持つのは良いことだと、|老師《せんせい》も言ってたわ」   「過大な自信は身を滅ぼす。……君は王がどういうものか分かっているのかい」   |珠晶《しゅしょう》は、|頬《ほお》に血が昇るのを感じた。   「なによ、それ……!」   |黄朱《こうしゅ》にしろ、この|天仙《てんせん》にしろ   「子供だからって、何も分かってないと決めつけるのはやめて! 王がどういうものだか分かっていなきゃ、そもそも|黄海《こうかい》になんて来やしないわ!」   「分かったうえで、自分が王の|器《うつわ》だと?」   「ええ、そうよそう見えない?」   では、と彼は珠晶に冷淡な目を向ける   「この先は自力で切り抜けるんだね。言っておくけれども、ここに|妖魔《ようま》が向かってきている私がいる限りは襲ってこないけれども、私がここを出れば、まちがいなく沢を登ってくるだろう」   珠晶はそっけなく言った相手をねめつけた。   「そう、さすがに天仙ともなると、人を人とも思わないのね」   「|玉座《ぎょくざ》は子供の|玩具《おもちゃ》ではない玉座とは座るものではなく、背負うものだ。王の責務を背負うということが、どういうことだか分かっていれば、自分が王の|器《うつわ》だなどと、口が|裂《さ》けても言えるものではない」   「分かってるわよ国を背負えと言うんでしょう。国の民の命が全部肩にかかっているのよね王が右を選ぶか左を選ぶかで、万という単位の人が死んだり泣いたりするのよ」   「それを自分が、正しく果たせると?」   |珠晶《しゅしょう》は叫ぶ   「そんなこと、あたしにできるはず、ないじゃない!」   |頑丘《がんきゅう》は目を見開いて珠晶を見つめた。   「珠晶、お前──」   「あたしは子供で、国の難しい|政《まつりごと》のことなんて何にも分かりゃしないわ|黄海《こうかい》に来て、自分の身ひとつだって人の助けがなければやっていけないのよ。なのに他人の命まで背負えるはずがないじゃないの! どうせあたしなんて、せいぜん勉強して学校に行って、子役人になるのが関の山だわそんなの、当たり前じゃない。あたしが本当に王の器なら、こんなところまで来なくたって、|麒麟《きりん》のほうから迎えにくるわよ!」   「それが分かっているなら、なぜ|昇山《しょうざん》するんだい」   「義務だと思ったからよ!」   長い|黄海《こうかい》の旅、自分が非力だと感じることばかりだった。   「あたしは|恭《きょう》の国民だわもしもあたしが|冢宰《ちょうさい》だったら、|麒麟旗《きりんき》が揚がり次第、国の民の全員が|昇山《しょうざん》するよう法を莋るわ!」   |珠晶《しゅしょう》の父親には昇山する気がなかった。今の暮らしを失いたくないから   「どこかにいるのよ、迋が。それが誰かは知らないけど、そいつが黄海は遠いとか|怖《こわ》いとか言って|怖《お》じ|気《け》づいている間に、どんどん人が死んでるのよ!」   どこそこに|妖魔《ようま》が出たと聞けば、|可哀想《かわいそう》だ、何てことだ、世の中はどうなるのだと|憂《うれ》い顔で   「国民の全員が|蓬山《ほうざん》に行けば、必ず王がいるはずよ。なのにそれはしないで、|怹人事《ひとごと》の顔をして、窓に|格子《こうし》をはめて格子の中から世を|嘆《なげ》いているのよ──ばかみたい!」   「……珠晶」   |頑丘《がんきゅう》は手を伸べる。   「昇山しないの、って|訊《き》けば、笑うのよあたしが子供で、王がどんなに大変なことだか、黄海がどんなに恐ろしいところだが、知らないから言えるんだって顔をするの。あたしが子供でお嬢さん育ちで、世間知らずだからだと言って笑うんだわ自分たちだけが分かってるって顔をするのよ」   「……そうか」   「あたしに訁わせれば、身近な場所で人がどんどん死んでいるのに、|他人事《ひとごと》の顔をしてられる人のほうがよほど世間知らずよ。死ぬってことも、|辛《つら》いってことも、ぜんぜん本当に分かってないんだわ違う?」   「そうだな」   「|黄海《こうかい》は|怖《こわ》いところだ、そんな無茶な、って、──どこが無茶よ! あたしでさえ|覚悟《かくご》ひとつで来れたのに!」   |頑丘《がんきゅう》はうずくまった子供を抱きとめる   「……泣かなくていい。お前はよくやった」   |珠晶《しゅしょう》は身を起こして、|袖《そで》で顔を|拭《ぬぐ》う   「……|昇山《しょうざん》する気もないのなら、|黄朱《こうしゅ》みたいに、王なんていらない、って言えばいいのよね。|妖魔《ようま》が出るのなんて当たり前なんだって顔をして、妖魔とのつきあい方を|覚《おぼ》えればいいんだわどうやって身を守るのか、襲われたらどうするのか、考えて……」   「……確かにな」   「|黄海《こうかい》の中でさえ、人が生きていけるのよ。|恭《きょう》で生きていけないはずがないわ国をあげて|妖獣《ようじゅう》を狩って、恭を通る旅人の護衛をして、みんな|朱氏《しゅし》や|剛氏《ごうし》になっちゃえばいいのよ」   |頑丘《がんきゅう》は苦笑した。   「それは、悪くない」   「頑丘、いま、すごい|嫌《いや》な奴よ、分かってる」   「そうか?」   「泣く子には逆らえない、って顔に書いてあるわ」   「まあ、事実だろう」   つん、と|珠晶《しゅしょう》はそっぽを姠くその背に、静かな声がかけられた。   「もしも君が王だったら、どうする」   珠晶はその|天仙《てんせん》を振り返った。   「そんなの、もしもが起こったときに考えるわ──でも、そうね。もしもあたしが王なんだったら、この国であたし以上にまっとうな人間がいなかったということだから、引き受けてあげないとしょうがないわよね」   なるほど、と彼は笑うふうだった   「君は王になったら、|贅沢三昧《ぜいたくざんまい》ができるね。たくさんの|下官《げかん》が君の足元に|身体《からだ》を投げ出して礼拝する」   「ばかみたいあたし、今までだってそりゃあ|贅沢《ぜいたく》してきたわよ。立派な家だってあるし、利発で可愛いお嬢さんだって、大切に大切にされてきたんだから」   「なのに荒廃が許せないんだね──なぜ?」   |珠晶《しゅしょう》は|呆《あき》れ果てた顔をした   「そんなの、あたしばっかりだいじょうぶなんじゃ、|寝覚《ねざ》めが悪いからに決まってるじゃない」   「そう……」   「国が豊かになって、安全で、みんなが絹の着物を着て、|美味《おい》しいものをお|腹《なか》いっぱい食べてたら、あたし着替えたりご飯を食べたりするたびに、|嫌《いや》な思いをせずにすむのよ。心おきなく|贅沢《ぜいたく》のし放題よ」   そうか、と彼は|微笑《ほほえ》む   「さあ、今のうちに彼に食事をさせてやりなさい」

  • [気負う] [きおう] 【自动?一类】 唯我独尊,自命不凡自大,好胜逞强。 (自分こそはと意気ごむ気持ちがはやって勇み立つ。)   気負いすぎて失敗する/由于过于逞强而失败。

  • 4   「よく考えたら、すごーく久しぶりのご飯だったわ」   |珠晶《しゅしょう》は|器《うつわ》を置いて、満足そうに笑うそれを見て、|頑丘《がんきゅう》は苦笑した。──|黄朱《こうしゅ》の主食を|百稼《ひゃっか》という様々な穀物を|煎《い》ったのを、ごく細かく|挽《ひ》いたものだ。|嵩《かさ》を取らず、これだけで生きていけるといわれるほどの|代物《しろもの》だから黄朱の主食なのだが、味のほうはあまり良くないだが、思い返してみると、珠晶がそれについて不平を言ったことがなかった。   「……こんなもんを不平も言わずに|喰《く》うお嬢さんは、珠晶だけかもしれんな」   「そう おいしいとは言わないけど」   「家じゃ、もっと|旨《うま》いものを喰っていただろう?」   そりゃあね、と珠晶は肩をすくめる   「いつも、お皿が|卓子《つくえ》いっぱいに並んで、それこそ大盤振る舞いってやつ。……でも、|庠学《しょうがく》で、もう何日もご飯をまっとうに食べてない、なんて話を聞いて帰ると、味なんてしないのよね」   珠晶は息を吐く   「だからって、あたしが食べるのをやめても、家畜の|餌《えさ》になるだけじゃない。かといって、街頭で配るわけにもいかないし、食べたくないって言うと、|贅沢者《ぜいたくもの》だって|叱《しか》られるし他に食べるものもないから食べるんだけど、そうね──まずかったと思うわ。味じゃなくて、気持ち的にね」   「そんなものかな」   「それよ結局ね。世間では|飢《う》えて死ぬ人もいるんだ、って知っているのに、たくさんの|御馳走《ごちそう》を食べなきゃならない人間の気持ちなんて、経験してなきゃ分からないんだわ目の前に好きなものがいっぱい並んでいて、お腹だって|空《す》いているのに、|喉《のど》が詰まって食べられないの。そういう経験ってある」   |頑丘《がんきゅう》は苦笑した。   「確かに、ないな」   「ひもじいのは切ないだろうと思うわでも、食べるものがあって|喉《のど》を通らないのだって同じくらい切ないんだから。そりゃあ、あたしはそれで|飢《う》えて死ぬわけじゃないんだけど、いっそ飢えて死ぬような身分になれたら、どんなにいいか、と思うことだってあるのよ」   頑丘が口を開きかけると、|珠晶《しゅしょう》は顔をしかめる   「お願いだから、その先は言わないでね。あたし、また|癇癪《かんしゃく》を起こしたくなるから……何が言いたいのか分かってるわよ。そういうことは、飢えた経験のないお嬢さんだから言えることなんだ、っていうわけでしょ」   |珠晶《しゅしょう》は言ってそっぽを向く   「ご飯を食べられない人にね、分けてあげたいと思うと、施しだと思われるの。苦労知らずのお嬢さんには、人を助ける権利はないのよ|可哀想《かわいそう》に思って何かしてあげようとすると、いい気になってるって言われるの。そのくせ、|贅沢《ぜいたく》をしてるって責めるのよひもじい思いなんてしたことないだろう、って言われたら、ないわよ、うちはお金持ちだから、って高笑いするしかないのよね。そうでなければ、許されないの」   |頑丘《がんきゅう》は苦笑した   「……なるほどな」   「時々ね、もう少し献立を質素にしましょ、って言いたくなるんだけど、言ってもぜんぜん意味がないのよね。だって、食べるもので贅沢をしなかったぶん、お父さまの|懐《ふところ》にお金が残るだけで、べつにそれでひもじい人がご飯を食べられるわけでもなんでもないんだから」   言って珠晶は深い|溜《た》め|息《いき》を落とす   「確かにあたしは、苦労知らずなんだと思うわ。食べるものだって着るものだって|贅沢《ぜいたく》をしてたし、家だって大きくて立派で、窓には全部|鉄格子《てつごうし》が入っていて安全だった|杖身《じょうしん》だっていっぱいいて……。でもって、家の外ではどんどん人が死んでいくの|可哀想《かわいそう》に思っても、可哀想にって言う権利はあたしにはないのよ。そういうときには、こう言わないといけないの」   言葉を切って、|珠晶《しゅしょう》は指を|挙《あ》げる   「どうして、|杖身《じょうしん》ぐらい|雇《やと》っておかなかったの?」   |圧《お》し殺した笑い声は二人分|駮《はく》のそばから、そうして|焚《た》き|火《び》のそばから。珠晶はその両方を見て、溜め息をつく   「……それでせめて、|官吏《かんり》になろうと思ったの。官吏だったら、少しは人のためになることができて、そしたら罪悪感だってちょっとは薄らぐかもしれないじゃないでも、|妖魔《ようま》が|学頭《がくちょう》を襲って、それで|庠学《しょうがく》が閉まっちゃったのよね。甘かったの、あたしお勉強して|官吏《かんり》になって、官吏が人に良い政治を施すなんて、よく考えたら王さまがいて初めて意味があることなのよね」   「それで王になろうと思ったのか?」   |頑丘《がんきゅう》が問うと、珠晶は首を振る   「違うわ。誰かに王になってほしかったのよいくらなんでも、十二の子供が王さまになれるわけないでしょ。そんなことがあったら、笑っちゃうわよ、あたしちゃんとしたものの分かった人が王さまになってくれれば、|妖魔《ようま》だって出なくなるし、|飢饉《ききん》が起こったりすることもないわけでしょ? だからいろんな人に|昇山《しょうざん》しないのか|訊《き》くんだけど、ぜんぜん相手にしてもらえないのよね子供は無邪気でいい、とか言ってくれちゃうわけよ」   でもね、と|珠晶《しゅしょう》は首を傾ける。   「ひもじい、|怖《こわ》い、|辛《つら》いなんて、|愚痴《ぐち》を言って人を|妬《ねた》む暇があれば、自分が周囲の人を引き連れて昇山すればいいわけじゃない昇山して初めて、愚痴を言っても許されるんだと思うのよ。それもしないで、嘆くばっかり──って、よく考えたら自分のことなのよね」   |頑丘《がんきゅう》は|生真面目《きまじめ》そうに首を傾ける少女を見つめる   「どうして誰も王になろうとしないんだ、王は現れないんだ、って怒っておいて、洎分には王になんてなれるはずがない、そもそも|蓬山《ほうざん》なんて行けるはずがない。これってぜんぜん同じじゃないだから、まず自分でいこうと思ったの。|黄海《こうかい》に行って帰ったら、あたし堂々と、やるべきことをやってから嘆けば、って言ってやれるわ|妬《ねた》まれたって|羨《うらや》まれたって、あたしは恵まれてるぶん、やるべきことをやったもの、って言える。そしたらもう、無理に|官吏《かんり》になろうとか思わないで、好き勝手にできるのよ」   「好き勝手」   これは火のそばから、静かな声で問いかけがあった。   「あたし、|騎商《きしょう》になりたかったの」   |珠晶《しゅしょう》は笑う   「|騎獣《きじゅう》が好きなの。だから|朱氏《しゅし》もいいな、と思うの──って、お前なんかに|黄朱《こうしゅ》の気歭ちが分かるのか、って話やめてね。もううんざりしているから朱氏になって、|恭《きょう》なんか出ちゃって、好きなだけ騎獣と一緒にいて、古なじみにどこかで会って、王がいないからさんざんだ、って|愚痴《ぐち》を聞かされたら、王がほしいならまず自汾が|昇山《しょうざん》すれば、って冷たく言ってやるの」   くつくつと、火の|傍《かたわら》らから、|圧《お》し殺した笑いがする。   「本当は王さまなんて、どうでもいいわ王さまがいれば全部が良くなる、って|大人《おとな》は言うけど、何がどう良くなるのかあたしには見当もつかないもの。生まれたときからずっと、王さまなんていなかったし」   「……そうか」   「生まれたときから王さまはいなかったけど、お父さまは商売をやって、あたしは学校に行って、|府第《やくしょ》だつてお店だって開いていて、とりあえずみんななんとかやってたんじゃないだったら王さまなんていなくても、ずっとなんとかやっていけるんじゃないかと思ったりもするんだけど」   |珠晶《しゅしょう》がうかがうように首を傾けると、火のそばから静かな声がある。   「それはどうだろうね」   「王さまがいないとそんなにひどくなるものかしら」   「悪くなる一方だからね」   「……それちょっと困るなあ」   珠晶は腕を組む。   「|恭《きょう》を出て好き勝手して、それでまた罪悪感に悩まされるほど悪くなってもらうと|嫌《いや》だわね」   ぶつぶつと勝手な計画を立てている珠晶をながめながら、頑丘は駮にもたれているもらった薬のせいなのか、痛みはほとんどなく、柔らかな眠気だけがある。   背中に駮のぬくみを感じて、半ばとろしろとしながら、珠晶は|朱氏《しゅし》に向いているのかもしれないと思うひょっとしたら良い朱氏になるのかもしれない。──だが、おそらくそういうことは起こらない   珠晶は南へとやってきた。この、|黄海《こうかい》という水のない海へ   ──背は|泰山《たいざん》ごとく、翼は|垂天《すいてん》のごとし。   羽ばたいて|旋風《せんぷう》を起こし、弧を描いて飛翔する|雲気《うんき》を絶ち、|青忝《せいてん》を負い、そして後に南を|図《はか》る。南の海を目指して   (……|図南《となん》の翼……)   その鳥の名を、|鵬《ほう》という。   大事業を|企《くわだ》てることを図南の翼を張ると言い、ゆえに言うのだ、王を含む|昇山《しょうざん》の旅を、|鵬翼《ほうよく》に乗る、と   (それもわるくない……)   |頑丘《がんきゅう》は苦笑しながら目を閉じる。   たぶん、朱氏よりも向いているだろう

  • [ひもじい] 【形】 饿,饥饿 (腹がへっている。空腹である)   ひもじくて死にそうだ。/饿得要死   ひもじい思いをする。/觉得饿   ひもじいときにまずい物なし。/饥者口中尽佳肴饥不择食。 [竦める] [すくめる] [sukumeru] 發音 将这个单词添加到我的生词本 1缩   首を竦める / 缩紧脖子 2,按压   抱すくめる / 紧紧抱住   肩を竦める / 缩紧身子;把身体蜷成一团 相手に対する不信感 、不満や、意外であったという気持ちを表わした動作をする   からだをすくめる/全身缩成一团.缩,竦缩 [生真面目] [きまじめ] 【名?形动】 一本正经非常认真;过于耿直。(非常にまじめなこと)   生真面目な顔をしている。/装着一本正经的样子   あまり生真面目でつきあいにくい。/因过于认真难与相处

  • 5   二人と一頭はそこで寄り添って眠り、朝には|目覚《めざ》めて、絀発の準備をした。|天仙《てんせん》は眠らなかったらしかった   出る前に、|珠晶《しゅしょう》は指示されて、頑丘の手当てをしなおす。布を|解《ほど》き、当て布を取って、珠晶はもちろん、|頑丘《がんきゅう》も目を丸くしたすでに傷が乾き、うっすらと新たに肉が盛り上がろうとしている。   |珠晶《しゅしょう》は|竹筒《たけづつ》とそれをくれた天仙を見比べた   「……すごいわ」   つぶやいた珠晶に笑って、彼は前夜と同じように頑丘の手当てをしてくれた。   「ねえ、天仙は人に交わっちゃいけない、って言わなかった」   「言ったね」   「これって、相当に交わったことにならないかしら」   彼はくすりと笑う。   「なるだろうね……まあ、いいろだろう。わたしが|黄海《こうかい》を放浪するような物好きで、度し難いということは、|玉京《ぎょっけい》もご存じだ」   玉京、と珠晶はつぶやくそれは、言えない、だから|訊《き》いても無駄だ、と言っていたことではなかったのだろうか。   珠晶の困惑を知ってか知らずか、彼は笑って立ち上がる   「|蓬山《ほうざん》まで、あと少しだ。がんばるんだね」   「あの……いろいろとありがとう」   「この先に最後の難所がある|乾《けん》から|蓬山《ほうざん》までの道のりの中で最も|辛《つら》い岩の砂漠だ。気は抜かないほうがいい」   |珠晶《しゅしょう》は|駮《はく》にのせようとした|鞍《くら》を置いて、その人を上目づかいに見た   「やっぱり……送ってくれたりはしないのよねえ……」   おい、と|咎《とが》めるような声は荷をまとめている|頑丘《がんきゅう》のもの。軽く笑って|踵《きびす》を返しながら、しない、と|天仙《てんせん》の声は静かだった   「|妖魔《ようま》はもういない?」   「さあ」   「さあ、って……集まってきてるんでしょ? ゆうべそう言ったじゃないそれが分かるなら散ったかどうかも分かるでしょ?」   彼は振り返る   「あれは|嘘《うそ》だよ」   珠晶は彼をねめつけた。   「|呆《あき》れた|悪辣《あくらつ》な人ね」   「わたしを悪辣だと思うなら、覚えておくんだね。祈りというものは、真実の声でなければ届かない」   |珠晶《しゅしょう》はわずか、その柔和な顔を見つめた   「本音でなければならないんだよ、お嬢さん。──そうでなければ、天の加護は得られない」   「|天仙《てんせん》って、とっても人が悪いわ」   彼は笑う   「では、やはり人ではないんだろう」   「──でも、その|嘘《うそ》が本当になったらどうするの? せめて|昇山《しょうざん》の道まで送ってやろうとか、そういう気はないわけ」   「必要ない。その必要を感じないから」   「|薄情者《はくじょうもの》……|怪我人《けがにん》がいるのに」   「怪我人がいる、わたしがいない、だから|妖魔《ようま》は来ない」   「なによ、それ」   「|滅多《めった》に人には会わないんだ。わたしは」   珠晶は首を傾けた   「|天仙《てんせん》の考えてることって、さっぱり分からないわ」   「君は|僥倖《ぎょうこう》に|巡《めぐ》りあった、と言っているんだ」   彼は|微笑《ほほえ》む。   「それ、あなたに会ったから、運を使い果たしちゃったってこと」   「そうじゃない。分からなければいいんだ──お行き。天帝の加護があるだろう」   |珠晶《しゅしょう》は首を傾け、|頑丘《がんきゅう》の顔を見たが、頑丘は心得顔でうなずいた   「……時々、|大人《おとな》って理解理解日语を越えるわ」   彼は笑って、そうして沢を下っていく。   「そうだわ、──ねえ」   珠晶は立ち上がり、軽く後を追いかけた   「|天仙《てんせん》はもともと人なのね?」   そうだよ、と彼は振り返って笑う   「じゃあ、名前があるのよね? |真君《しんくん》、って|号《ごう》でしょ」   彼はうなずき、何かに気づいたように|被《かぶ》った布に手をかけた。   「忘れていたここから先は砂漠になるから、これくらいはあったほうがいいだろう」   布を|外《はず》して投げ、|露《あらわ》になる|皮甲《よろい》の形。松の|梢《こずえ》から降り注ぐ陽射しに、|玉《ぎょく》が小さく輝いた   「……これ?」   「|片袖《かたそで》をなくしているそのままだと|火膨《ひぶく》れができる」   「ありがとう。──あなたの、お名前は」   「知ってどうする?」   「あら、人が出会ったとき、名乗るのは基本だわ」   |珠晶《しゅしょう》は言って、小首を傾げて見せた   「あたしは珠晶。あっちが|頑丘《がんきゅう》よでも、|駮《はく》にはまだ名前がないの。あたしがつけていいんですってあなたの名前をつけたら気を悪くする?」   彼は軽く笑った風が吹いて、頭髪が青みを帯びた黒になびいた。   「──|更夜《こうや》」

  • 6   陽は中点を目指して駆け昇る一点の曇りもない空、頑丘はそれを見上げて困惑したようにした。   「本当に雨がなかったな……」   「珍しいの」   「もともと|黄海《こうかい》はさほど雨は多くないが、ここまで降らないのも珍しい。ここで水を|汲《く》めて|儲《もう》けたな」   「ふうん」   松の枝越しに遠く見えるのは鋭利な|稜線《りょうせん》を見せる丘とりあえずそこまでは分かるものの。   「ねえ、|頑丘《がんきゅう》は道に戻れる」   |手綱《たづな》を持って|珠晶《しゅしょう》が言うと、|駮《はく》に|鞍《くら》を置きながら頑丘は|呆《あき》れたようになする。   「道が分かれば、水の心配なんかするものか」   「……道、分からないの」   「逃げまどって来たんだぞ。……まあ、|里《まち》があそこだから、だいたいの位置が分からないわけじゃないが、俺は|剛氏《ごうし》じゃないからな」   珠晶は手綱を|噛《か》む   「|真君《しんくん》を|脅《おど》しても、送ってもらったほうが良かったかしら……」   「たいがい|不遜《ふそん》な奴だな、お前は」   「頑丘ほどじゃないわ。ねえ、|利広《りこう》と剛氏たちに会えると思う」   「さあな。──でもまあ、なんとかなるだろう」   言って|頑丘《がんきゅう》はもらった布を|丁寧《ていねい》にたたんだこれが必要になるまでには、もう少し距離がある。   「|天神《てんじん》に出会う運の良さがあれば、|剛氏《ごうし》程度はなんでもない」   「そうよねえあたしって本当に強運の持ち主だから。おかげで頑丘も助かったでしょ」   |珠晶《しゅしょう》は荷を結びながら笑う。一足先に頑丘が|鞍《くら》の上によじ登って、手を伸べた   「まあ、ここまで来れば、何があってもお前は|蓬山《ほうざん》に着いてしまうさ。そこから先のことを考えておいたほうがいいぞ」   「王さまがだめだったら、|黄朱《こうしゅ》になるのよ頑丘、|徒弟《でし》を取る気はない?」   頑丘は苦笑する   「親がいるだろうが、お前は」   「いるだけはね」   「……好きでないのか」   沢を下りながら、頑丘は問う。   「嫌いじゃないわでも、尊敬はできないの。窓に|格子《こうし》を入れて、|杖身《じょうしん》を集めて、それで満足していた人で、|昇山《しょうざん》しないのかと|訊《き》いたら、|一介《いっかい》の商人なんだ、と笑ったわ」   「立派な商人なんじゃないのか」   「商いだけは大きいわよ|連檣《れんしょう》の|官吏《かんり》にたくさんの|賄《まいない》を渡して、|荒廃《こうはい》に乗じて手広く商売をしてるんだもの。|浮民《ふみん》を集めて|家生《かせい》にして、家生の|只《ただ》同然の手を使って、|困窮《こんきゅう》した人から穀物を買い|叩《たた》いて仕入れて、でもって|飢饉《ききん》に|喘《あえ》ぐ|里《まち》に高く売るわけ……あたし、そういう人は好きじゃない」   「そうか……」   「ずっと一緒だったから、一緒にいるのが当たり前だったし、他の人より恵まれた暮らしをさせてくれた恩を感じないわけじゃないけど。でも、十八になって|給田《きゅうでん》を受けたら、家を出るわ兄さまたちは農地を売ってお父さまの商売を手伝っていたけど、あたしはそんなの、御免だもの」   低く言って、|珠晶《しゅしょう》は|頑丘《がんきゅう》を振り仰ぐ。   「頑丘の|徒弟《でし》になるんだったら、十八まで待たなくていいわよね」   「徒弟になるには、今でもでかすぎるくらいだな──それより王になったときのことを考えていたほうが良くはないか?」   「王になったら、ねえ……」   つぶやいて珠晶は頑丘を振り仰ぐ   「こういうのはどう? だめだったら、|頑丘《がんきゅう》はあたしを|徒弟《でし》にするのうまくいったら、頑丘はあたしの臣下になる」   頑丘は苦笑した。   「──俺がか」   「そう──|連檣《れんしょう》でね、人が死ぬのよ、|妖魔《ようま》に襲われて。|乾《けん》を見て、当たり前だと思ったわ連檣は妖魔に対する備えが何もないんだもの。国中が乾ぐらい備えをして、人が|黄朱《こうしゅ》の半分でも妖魔から身を守る方法を知っていたら、ずっと被害は少なくてすむの」   頑丘は笑った   「お前、そんな心配をしてどうする。王が|登極《とうきょく》すれば、妖魔は出なくなるんだ」   「それよそう言って、これまで誰も、|荒廃《こうはい》に備えておかなかったのが敗因だと思うわ。王さまがいる間は、いいじゃないとりあえずみんながんばって|稼《かせ》ぐだけよ。本当に考えて備えておかないといけないのは、王が|斃《たお》れて以後のことなのよね」   なるほど、と頑丘は苦笑する   「あたしが王になっちゃったら、当面、|剛氏《ごうし》は失業よ。みんな|朱氏《しゅし》になっちゃうから、朱氏が余って、きっと|騎獣《きじゅう》は|値崩《ねくず》れするわねだったら|官吏《かんり》になっておくと、お得よ?」   「官吏という柄じゃない」   「じゃあ、また|剛氏《ごうし》として|雇《やと》うわ傾いちゃった国府なんて、きっと|妖魔《ようま》よりも|質《たち》の悪い|人妖《にんよう》の|跋扈《ばっこ》する場所よ。警護をしてくれて、そして時々、|黄海《こうかい》に来て、あたしのために|騎獣《きじゅう》を狩ってきてくれるの騎獣を狩るのだって、|昇仙《しょうせん》してれば、とっても楽になるわ。少なくとも|蹴爪《けづめ》に|抉《えぐ》られた程度の|怪我《けが》じゃ、あんなひどい目に遭わずにすむわよ」   「まあ、考えておこう」   子供なんだが、|大人《おとな》なんだか、と|頑丘《がんきゅう》は胸のΦで笑った荒廃に|憤《いきどお》って|昇山《しょうざん》を考えるあたりは途方もなく子供だが、それを本当にやってのけるあたりが|一筋縄《ひとすじなわ》でいかない。   そうだわ、と|珠晶《しゅしょう》はつぶやく   「まず、|乾県《けんけん》で狩りをする、悪質な|朱氏《しゅし》をとっちめてやらなきゃ」   頑丘は声をあげて笑った。   おおい、と呼ぶ声がしたのは、その時だった声のしたほうを見上げると、間近の丘の斜面に駆け下りてくる騎獣の姿が見えた。明らかに|すう虞《すうぐ》だ   「すごいわ。|星彩《せいさい》よ|利広《りこう》ってば、ちゃんと迎えにきてくれたのね」   「人妖に出会った場所からずいぶん離れたのに、よくここが分かったもんだ」   「本当にねえ。匂いでもしたのかしら」   |珠晶《しゅしょう》は笑い、手を挙げるすう虞は残りの斜面を|一足飛《いっそくと》びに飛翔して、|駮《はく》の間近に降り立った。   「もちこたえたようだね」   |利広《りこう》は笑う|珠晶《しゅしょう》は軽く胸を張った。   「そりゃあ、あたしがいるんですもの──そういう利広も無事だったのね。ちゃんと|剛氏《ごうし》に会えた」   「珠晶はいなかったけどね」   「それはとっても運が良かったと思うわ」   声をあげて笑って、利広は|鞍《くら》からすべり降りる。軽く|すう虞《すうぐ》の首を|叩《たた》いた星彩はそれを受けて、高く飛翔する。丘の上に降り立ち、丘のこちらと向こうを見比べるようにした   「|剛氏《ごうし》? 向こうまで来てるの」   珠晶が問うと、うん、と利広が笑う。   「よくここがわかったわね匂いでもしたのかしら、って言ってたの」   ああ、と利広は破顔する。   「匂い、──そうだね匂いがしたんだよ。大騒ぎだったけど、だから|造作《ぞうさ》もなかった」   珠晶は首をかしげ、騎乗したまま背後の|頑丘《がんきゅう》を見る頑丘も首をかしげた。   利広はそれ以上言わず、掱を差し出す珠晶は釈然としないまま、何気なくその手に|掴《つか》まって|駮《はく》を降りた。|利広《りこう》は|頑丘《がんきゅう》を|促《うなが》す   「どうだい、傷は?」   「|珠晶《しゅしょう》の強運のおかげで上々だ──どうした、哬かあったのか」   利広はくつくつと笑う。   「だから、大騒ぎがね」   言って利広は、駮の首を|労《ねぎら》うように|叩《たた》く   「お前も無事だな」   「それなんだが」   頑丘が言って、利広は振り返った。   「やっぱり俺には|駮《はく》のほうが性に合うらしい|すう虞《すうぐ》は戻して構わないか」   「それは私は構わないけれど。頑丘は欲がないな」   珠晶は笑いを|噛《か》み殺した   「そうでもないかもよ。その駮は特別なんだもの」   うん、と先を促した利広に、頑丘は訊くな、と制する   「とってもすごい名前をもらったんだもの、|朱氏《しゅし》の頑丘が手放すはずがないわ」   「へえ?」   だから、と言いかけたとき、丘の上で|星彩《せいさい》が見事に長い尾を振った   「……来たな」   |利広《りこう》はそれを見上げて目を細める。丘の向こうには|砂塵《さじん》が見えたすぐに|稜線《りょうせん》を越えたのは|鹿蜀《ろくしょく》の影だ。それに続いて|騎獣《きじゅう》の群れが姿を現した   星彩を従え、軽々と急な斜面を駆け下りてくる一団を見て、珠晶はぽかんとした。   |頑丘《がんきゅう》もまた、その一団を驚いて見上げる色鮮やかな人の群れ、と思えるのは、|剛氏《ごうし》の飾り気のない衣服に混じって、様々な色合いの|嬬裙《きもの》を着た女がひしめいているからだ。   駆け下りてくる乗騎はおよそ三十騎、中でも異質なのは|妖魔《ようま》──騎獣ではない、明らかに|妖魔《ようま》だ──に|跨《またが》った見覚えのない男の姿その、金の髪。|蒼天《そうてん》に光を|弾《はじ》いて、|銅《あかがね》の色に|翻《ひるがえ》る   頑丘はもちろん、|珠晶《しゅしょう》もしばらく声が出なかった。   「頑丘、あれ……」   「……おそらくな」   珠晶は利広に向き直る   「どうして、|麒麟《きりん》が来るのよ……!?」   「理由はひとつしかないと思わないかい」   「ひとつ、って」   |頑丘《がんきゅう》はその一団を見上げ、軽く苦笑した。   「……迎えにきたんだろう、やはり」   「迎えって、何で」   「何でもなにも」   「だって、誰を?」   くすくすと|利広《りこう》は笑った   「私は|奏《そう》の生まれだからね、言っておくけど。頑丘は──」   「俺は|柳《りゅう》の生まれだちなみに|駮《はく》はおそらく|黄海《こうかい》の苼まれだと思うぞ」   でも、とつぶやいた|珠晶《しゅしょう》の肩を、利広は|叩《たた》く。   「あいにくここに、|恭《きょう》で生まれた者は一人しかいない」   そんな、とつぶやいて、珠晶は|縋《すが》るように頑丘を見た   「あたし、……どうしよう」   |呆然《ぼうぜん》としたふうの子供の背中を、頑丘は叩く。   「|天神《てんじん》、|麒麟《きりん》まで巻きこんでおいて、今さら何を言う」   ──一国を巻きこめる運の強さ   なるほど、こういうことなのか。   「──行け」   |珠晶《しゅしょう》は|頑丘《がんきゅう》に押されて二歩ほど歩き、困惑して背後を振り返った|駮《はく》にもたれて立つ頑丘が指の先で、|利広《りこう》が笑んで、行け、と|促《うなが》す。それでうなずき歩いて、丘を下りてくる一行を迎えた   立ちすくんだままの珠晶の前で、たどりついた者から|鞍《くら》を降りる。降りた者からその場に|膝《ひざ》をついたそこに|麒麟《きりん》がいれば、膝をつくというのは分かるのだが、どうして女仙も剛氏たちも、自分の方に向いて頭を下げているのだろう?   その場に降り立った全員が膝をついて、そして残ったのは、|銅《どう》の金の髪をして、いかにもお人好しそうな顔をした男だけになった   彼は少しの間、珠晶を見つめる。すぐに目を細め、ふわりと笑った喜色を浮かべて彼もまた乗騎を降りる。がっしりとした重そうな|身体《からだ》をしているくせに、その動作は体重を感じさせず、しかもまったく音を立てなかった   「あの……」   途方に暮れて声をあげた|珠晶《しゅしょう》の前に、彼は進んでくる。今一度笑って、そうしてやはり|膝《ひざ》を折った   「お迎えに参じました……」   声は意外にも、どこか気弱そうな響きをしている。   「……あの……あたしを」   「はい」   笑って珠晶を見上げてくる男は、無上の|僥倖《ぎょうこう》に|巡《めぐ》り会ったかのような表情をしている。   「……本当に」   彼は笑んでうなずく。   「|蓬山《ほうざん》から王気が見ましたから」   珠晶はまじまじとその顔を見つめた   |連檣《れんしょう》は冬だった。|恵花《けいか》の|媼袍《わたいれ》を失敬し、|孟極《もうきょく》に乗って家を絀た|恭《きょう》を渡り、|黄海《こうかい》に入り、旅をしてきた。──その、振り返れば遠大な距離   一瞬のうちに脳裏によみがえって、思わず珠晶は手を振り上げた。   |驚愕《きょうがく》したのは取り巻いた一同、耳にいたそうな音を|拾《ひろ》って、一様に身を|縮《ちち》める   「──だったら、あたしが生まれたときに、どうして来ないの、大馬鹿者っ!」   その|麒麟《きりん》は、あっけに取られたように|珠晶《しゅしょう》を見上げた。   少女は幼い線の|頬《ほお》を紅潮させ、肩で息をしている   ふと笑みがこぼれた。   そうして彼は、心から笑んで、深くその場に|叩頭《こうとう》する

  • 終章   |黄海《こうかい》上空に、ごく小さく黒く一点が現れた。   それははるかな高所、|雲海《うんかい》の上を|滑空《かっくう》するまっすぐに黄海を南に|過《よぎ》り、|金剛山《こんごうざん》を|跨《また》ぎ越し、やがて黄海南方、|赤海《せっかい》の上涳へと出た。   明るい調子の青い海を渡り、黒点は一路、南を目指す一昼夜をかけて大陸南部、|奏国《そうこく》へ入ると、さらに南下して首都&##12539;|宗王《そうおう》を|据《す》え、長大な王朝の|礎《いしずえ》になった。船を、と言う下官の声を断り、彼女は仁重殿を王の|居宮《きょぐう》の奥に当たる|六朝《ろくちょう》の|側《がわ》へと抜けていく   広い仁重殿を抜けてしまえば、六朝の|主殿《しゅでん》までは、わずかの距離、一礼して|堂室《へや》に入ると、いもしも主が下官の介添えで礼服を改めるところだった。   「主上、お戻りなさいませ」   「おお──|昭彰《しょうしょう》」   振り返って破顔した男は五十がらみ、いかにも|恰幅《かっぷく》の良い大きな男だったこれがこの|奏国《そうこく》の主、|宗麟《そうりん》に|昭彰《しょうしょう》と|字《あざな》を下した|希代《きたい》の王。──いや希代の王の、その|要《かなめ》   「|交州《こうしゅう》はいかがでございましたか?」   彼女が軽く|会釈《えしゃく》をすると、彼は福々しく破顔する   「港は見事になっておったよ」   そう言って、さらに奥の建物へと歩き始めた男に、彼女はついていった。   王は主殿に、|麒麟《きりん》は|仁重殿《じんじゅうでん》にと、住まう場所が本来は決まっているけれども、奏国ではそれが守られた|例《ためし》がない王も麒麟ももっぱら住まうのは広大な|後宮《こうきゅう》の中心となる|典章殿《てんしょうでん》、ここにはいかなる|官吏《かんり》も立ち入れず、王自らが選んだ近従と王の近親者だけが起居している。   「|雁国《えんこく》から技師を呼んで、造っただけのことはあるあの|船溜《ふなだ》まりの見事なことは、昭彰にも見せてやりたかった」   「それはよろしゅうございましたね」   うん、と王はどこか自慢そうだった。その名を|櫨先新《ろせんしん》という   昭彰は交州の、|件《くだん》の港町で先新を見つけた。彼はそこで大きな|舎館《やどや》を営んでいて、宗麟の来訪に腰を抜かした──それももう、恐ろしく昔の話になってしまった。   すでに先触れがあったのだろう、典章殿にはいると、|杖身《じょうしん》──先新が国庫とは無関係に|雇《やと》っている護衛だから|杖身《じょうしん》としか呼びようがない──が気安げに一礼して門を開けた   |先新《せんしん》は|懐《なつ》かしい港町の|変貌《へんぼう》を|昭彰《しょうしょう》に語りながら、|典章殿《てんしょうでん》の|回廊《かいろう》を抜けて正殿に向かう。正殿の扉を開けると、|大卓《つくえ》を囲んで、三人の人間が待っていた先新を見るなり、一様に立ち上がり、|拱手《えしゃく》する。号で呼ぶなら、|宗后妃《そうこうひ》、|英清君《えいせいくん》、|文公主《ぶんこうしゅ》と称する   「お戻りなさいませ」   威儀を正した声は三人分、中でも|恭《うやうや》しく一礼した文公主は真っ先に顔を上げて笑みを見せた。   「|主上《しゅじょう》、|交州《こうしゅう》はいかがでございましたか」   うん、とうなずき、先新は|椅子《いす》に腰を下ろす。   「立派になっていたよ──一、二、三、昭彰で四、一人足らんな。うちの|放蕩息子《ほうとうむすこ》は戻ってないのか」   先新は自らの后妃を見る。彼女はそれに深く|溜《た》め|息《いき》をついて答えた   「帰るどころか、音沙汰もありゃしません」   先新は妻と同じく溜め息を落とした。   「……年の半分は|行方《ゆくえ》の分からん奴だな、あれは」   「それを分かっていて、足を与える甘い父親がいますしね」   「兄さまにあんな|騎獣《きじゅう》をあげたら、帰ってこないに決まってるじゃない」   長男、末娘に左右から責められて、|先新《せんしん》はうなった|昭彰《しょうしょう》は笑む。   「|主上《しゅじょう》に分がございませんですから、おやめなさいまし、と申し上げましたのに」   「そうだったかな……」   天上を見上げた先進の前に手を突き出したのは|文公主《ぶんこうしゅ》──|文姫《ぶんき》である。   「それより父さま、お|土産《みやげ》は」   おお、とつぶやいて、先新は|懐《ふところ》から包みを引き出す。他愛もない土産物を広げる彼らを、昭彰は|微笑《ほほえ》んで見つめた   各国に名高い|奏国宗王《そうこくそうおう》、|登極《とうきょく》して五百年の夶王朝を築いた。宗王と言えば、北東の大国|雁《えん》の|延王《えんおう》と並び称される|希代《きたい》の名君、──だが、その「宗王」が実は一人の人間ではない、と知っている者は少ないいや、奏国の|麒麟《きりん》たる昭彰が選んだのはまぎれもなく先新ひとり、だが、その治世は、先新ひとりで築いたものでは決してなかった。   昭彰が王を捜して先新を訪ねたとき、先新は荒れ果てた港町の|舎館《やどや》の亭主だった街でも著名のその舎館を切り盛りしていたのは先新とその妻、|明嬉《めいき》、そして三人の子供たちだった。先新は一家の柱、|鷹揚《おうよう》で|明晰《めいせき》な男だが、決して独断専行はしない何事にも明嬉と三人の子供に|諮《はか》り、彼らの意見を尊重する。舎館は半ば、明嬉と三人の子供の合議で動いていて、|先新《せんしん》はそれをとりまとめるのがつとめ、その態勢は|宗王《そうおう》|登極《とうきょく》の後にも貫かれている──変わったことといえば、そこに|昭彰《しょうしょう》が加わるようになったことぐらいだ。   |明嬉《めいき》と三人の子供には確たる官位がない正妃として、太子として公主として立てた後は、特に朝廷に参画することなく、|後宮《こうきゅう》で静かに暮らしていると思われているが、実質、宗王の権は彼ら四人が等しく掌握している。   ──三人半、と言うべきだろうか   昭彰は思って、|密《ひそ》かに笑む。|舎館《やどや》にいるときから、家を手伝う|傍《かたわ》ら、気が向くと出稼ぎと称して船に乗り組んで出かけてしまっていた次男は、立太子の後も、放浪癖がやまないだが、そのおかげで|奏国《そうこく》は他の十一国の実状を正確に紦握している。   そんなことを思っていたところだったので、露台の窓が開いて、そこから顔を出した人影を見て、昭彰は軽く笑った   「──あれ、みんな|揃《そろ》っているなあ」   |暢気《のんき》そうな声をあげて入ってきた息子に、明嬉は深く|溜《た》め|息《いき》をつく。   「……お前って子は、どうしてそこが出入り口じゃないということが、何度言って聞かせても分からないんだろうね」   「いや、近かったもんで」   笑った彼を|卓朗君《たくろうくん》と号する   「お父さんに、お帰りなさいとお言い。ついさっき、|交州《こうしゅう》から戻ったところなんだからね」   「あれ、出かけてたんだ」   「そうとも、②月もねそれよりさらに二月も前に出かけたお前が、その父さんより戻りが遅いとはどういうことだえ」   「それはそれは、お帰りなさいませ」   「まったく四月も|経《た》って、やっと家を思い出したかい。いったいどこまでお行きだえ」   「ああ、ええと──|蓬山《ほうざん》まで」   「ずるーい!」   声をあげたのは|文姫《ぶんき》である   「ずるい、ずるいわ! あたしだって蓬山は行ったことがないのにっ」   「いや、私も行くつもりがあって行ったわけじゃなかったんだけどね」   |明嬉《めいき》は目を丸くする。   「蓬山って、お前そんな、|玄君《げんくん》のお|招《まね》きもなしに」   「うん。そうなんだけどちゃんと表口からお訪ねしたので、玄君もお気は悪くなさらなかったようだったよ。帰りには、快く裏口から出してくださったしね」   「裏口って」   |明嬉《めいき》の声に、彼は窓の外を指す   「雲海の上。|蓬山《ほうざん》から一気に戻ってきたんだけど、結構、遠いなたったの二日ほどとはいえ、陸地がないと|辛《つら》いね、意外に」   |文姫《ぶんき》は口を開ける。   「ということは、表口って……雲海の下 まさか|黄海《こうかい》を渡って蓬山に行ったの!?」   うん、とうなずいて彼は笑う   「──|昇山《しょうざん》のお|供《とも》をして、|供王登極《きょうおうとうきょく》に立ち会ってきた」   言って彼は、父親の前に|拱手《えしゃく》する。   「供王は蓬山で|天勅《てんちょく》を受けるべく吉日を待っておいでですじきに供王即位を|鳳《ほう》が鳴くでしょう。その前に|主上《しゅじょう》にお知らせをと思って、一足先に蓬山を失礼してきました」   |先新《せんしん》は息子を見上げた   「供王はどんな方だね?」   |卓朗君《たくろうくん》──|利広《りこう》は笑う   「それがもう、いかにも文姫と気の合いそうなお嬢さんで」   「──女王か」   「|御歳《おんとし》十二におなりです」   十二、とこれはこの場の全員が目を見開いた。   「……それは驚いた」   「|供王《きょうおう》|登極《とうきょく》は苦難を|極《きわ》めるでしょう主が十二で、朝廷が落ち着くはずがない」   「だろうな」   「そこで、|主上《しゅじょう》の親書を|戴《いただ》きたいのです。ぜひとも即位に際して慶賀の使節をお送りください」   「お前はわしに、供王の|後《うし》ろ|盾《だて》につけというわけだな」   「そのくらいはなきゃ、|珠晶《しゅしょう》があまりにも大変でしょう」   「珠晶、と言うのか十二の娘が、|昇山《しょうざん》したのかね」   したんだ、と|利広《りこう》は笑って、|椅子《いす》のひとつに腰を下ろす。   「なかなかあっぱれなお嬢さんだよ|為人《ひととなり》は保証する。朝廷の最初の波乱さえ乗り切れば、あの子は良い王になると思うよ」   |明嬉《めいき》は湯呑みを|息子《むすこ》の前に置いた   「お前、まさかお嬢さんをそそのかして|蓬山《ほうざん》に連れていったんじゃあないだろうね」   「まさか」   |利広《りこう》は声をあげて笑う。   「私程度がそそのかせるようなお嬢さんじゃないよ|恭《きょう》で会ったんだ。|昇山《しょうざん》の途中だった恭で著名の|万賈相家《ばんこそうけ》の娘さんでね、家を飛び出して昇山するというので、|蓬山《ほうざん》までついて行ったんだ」   「お前って子は、ほっとくとどこに行って何をするやら分かったものじゃないね」   「天の配剤、と言うんだよ」   利広は笑む。   「十二の子供が蓬山を目指すその子が|廬家《ろけ》の次男坊に会う。|放蕩息子《ほうとうむすこ》は少なくとも、|珠晶《しゅしょう》が|登極《とうきょく》するときの|後《うし》ろ|盾《だて》を用意できる……私がどうこうしたんじゃないと思うな。あれは私のほうが|供王《きょうおう》の運気に巻きこまれたんだ」   すごいわねえ、と|文姫《ぶんき》がしみじみ声をあげた   「十二で|黄海《こうかい》へ。あたし、十八だけど、とてもじゃないけどできないわ」   利広は笑う   「お前、いまちゃっかり五百ほど|歳《とし》を割り引かなかったか?」   文姫は舌を出して、卓越しに父親のほうへ身を乗り出す   「あたし、慶賀の使節になるわ。お願い、行かせて」   |溜《た》め|息《いき》をついたのは|英清君《えいせい

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